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06年6月11日 |
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 「十一人の侍」 名作と誉れの高い「十三人の刺客」がリメイクされたのを機にオリジナルを観たいなぁと思っていましたら 集団活劇シリーズ(？)の後続であるこちらを先に観る機会を得ました。 菅貫太郎お得意の、それはそれは憎たらしい将軍の弟君。 権力をカサにやりたい放題の敵に我が主君殿を殺され、藩を取り潰された忠臣達の怒り。 観客の感情を背負って爆発するクライマックスへ突っ走りる展開はおそらく「十三人の刺客」とほぼ同様の 流れなんでしょうね。 仇討を成功させる為に、気が逸る若侍を制御しつつ機を待つリーダーの夏八木勲は忠臣蔵の大石内蔵助のようです。 暴走する“死狂い”の哀しい最期を見せるのは夏八木勲の義弟役である近藤正臣で、彼を殺す菅貫太郎の残忍っぷりを 引き立たせる上でも見事な役回りでございました。 個人的にタマランなあ！と思いながら観ていたのが西村晃演ずる浪人。 彼なりに体制への恨み・怒りがあっての参加なのですが、やたらと強かったり竹の大砲を嬉しそうに仕込んだりする様が この作品の中で最も活き活きと自由な役柄なんですよね。 「用心棒」の仲代達矢ともまた雰囲気の異なるアヤシゲなマフラー姿がまたね、気になるんですよ。 おそらくは彼なりの死に場所を、<トノサマという奴をぶった斬る>という千載一遇の場面に見出したのでしょう。 クライマックスの大殺陣で菅貫太郎と配下数名が逃げた先にいる西村晃、刃を見せつけて 「待ってたぞ！」 の一言に心底シビレました。また強いんだ、この人ｗ 武士階級社会の不条理を訴えかけるテーマ性は「浪人街」や「切腹」なども持ちえていますが、何せ里見浩太郎や 南原宏治、佐藤慶に汐路章(忠臣十一名の一人！)など役者の顔が多彩で飽きさせません。 こうなると、俄然「十三人の刺客」が観たくなるなあ。(１１・８・１６) 「君も出世ができる」 私がこのタイトルを初めて知ったのは、ピチカートファイヴ最後のオリジナルアルバムに 収録された「アメリカでは」の元ネタとして、でした。 ２００９年も終わろうという時期に映画狂の兄からＤＶＤを貰いましてね。 昭和３９年の東宝が手掛けた和製ミュージカル、とだけ聞いて観てみたら・・・ まーエネルギッシュでお洒落な映画！ いきなり冒頭からフランキー堺の見事な動きに目が釘付け。 以下、無責任シリーズのようなサラリーマン物にダンスと歌のゴージャスな世界が ラストまで高いテンションのまま引っ張ってくれます。 バイタリティの塊であるフランキー堺。 「〜でさ」という語尾をやたらに多用する、割と控えめな有島一郎。 スタイルの良さと美声で、今回の得な役どころをこなす高島忠夫。 品の良さが抜きん出ている益田喜頓。 いつもの様に華やかで美しい浜美枝。 そして可愛らしくて明るく、目を見張る歌唱力の中尾ミエに メインのミュージカルヒロインで英語も堪能な雪村いづみ。 その他キャストやダンサーの皆さんといい、人的要素の豪華さに驚かされます。 黛敏郎の音楽、谷川俊太郎の作詞で「アメリカでは」は長尺のステージ。圧巻。 ラスト近くの大人数サラリーマン愚痴ダンス(笑)シーンはゾンビも逃げ出すような ドエラい迫力があるんですよ。全編に力が漲っていますよ。 ファッションに関しては、どうも現代の方が退化した気がするんですよね。 それくらい皆さん実に洒落ています。 さらには、出演時間こそ少ないけれど植木等大先生の「これが男の生きる道」！ センスの良さを演出する素晴らしいデザインのセットも相まって、それはそれは 絢爛な宝石を見せて貰ったような１００分間でした。 制作費でも俳優・スタッフの才能の面でも、こんなに日本の映画は豊かだったんだなあ。 観ていて元気になる邦画ですよ。(０９・１２・２９) 特別企画という名の苦行"「幻の湖」対「コマンドー」" 東宝創立５０周年記念映画にして、１９８２年公開時の評判を聞くこともなければ 存在すら私は最近まで知らなかった映画がございました。 その名は「幻の湖」。 制作は橋本プロダクション。 「羅生門」「生きる」「七人の侍」「日本沈没」「砂の器」「八つ墓村」「私は貝になりたい」等といった 不朽の名作の脚本を手がけた橋本忍氏が設立した制作会社で、本作「幻の湖」でも勿論 原作・脚本・監督を担当されています。マイク水野のような大活躍ですねｗ 橋本先生はこの作品で「ネオ・サスペンス」と銘打った、実に斬新な映画を作られました。 大まかに内容を説明しますと、主役であるソープ嬢の愛犬が殺される事件を軸に ジョギング、琵琶湖の情景、恋愛、復讐、スパイ(？)、横笛(？？)、時代劇(？！)、そして 宇宙(○▲□×▽＄ё◎！！)という、それはそれはタイヘンな要素を全て散りばめた オールスターキャストによる１６４分の大作となっております。 何せ偉大な仕事をされている橋本先生による、東宝５０周年記念映画です。 出演者だって主演の南條玲子以下、長谷川初範にかたせ梨乃、西田健に室田日出男に 下條アトムに谷幹一に北大路欣也に星野知子に大滝秀治に・・・と枚挙に暇がないほどです。 誇張でもなんでもなく、本当に豪華なキャスト陣でしょ。 なのに、この作品がどうして劇場封切一週間ほどで打ち切り(！)という憂き目に遭ったのか？ ここではその原因を探るべく、チャート式で時間と内容を追っていきたいと思います。 オタキングの著書でこの観方を教わった私は、比較対照用に皆さんがよくご存知の 佳作を用意いたしました。 シュワルツェネッガーの「コマンドー」を今回は選んでみたんです。 約９０分で何も考えずに気分良く観られる点、そしてシュワちゃんのキャラをマンガチックに 立たせる事に成功している点で私は「コマンドー」を高く評価しております。 それでいて、日曜洋画劇場なんかで何度もお目にかかれてますしねｗ ちなみに、今回はレンタルＤＶＤソフトでの鑑賞でございます。 我が家のＤＶＤプレイヤーが表示した経過時間を参考にしておりますので、時間は 大まかな目安だと思って下さい。 また、シーンの説明上開始時間と表の内容に多少のズレがあります事を あらかじめご了承下さいませ。
いやはや、どうもお付き合いありがとうございましたm(_ _)m 「幻の湖」、なるべく内容が繋がるように説明したつもりなのですが・・・これでも沢山の 小エピソードをカットしております。それでコレですよ(笑)。 最も衝撃を受けるシーンは、あえて書いておりません。 ネタバレしてどうこうという映画ではございませんが、ここはひとつ自分も観てみるか！と 思い立った勇者の皆様へのお楽しみですね。 まず観終わって即座に感じるのは「盛り込み過ぎ」ですよね。 この映画のプロットから、もっと観やすい映画が最低５本は作れると思います。 色々あったけれども、結局何だったのか？と思わせる点ではＳＦファンが当時本気で 世界に誇れる傑作の完成を信じた「さよならジュピター」と同じ匂いを感じます。 百歩譲ってこのプロットを橋本先生が発表された時にですね、どうして制作サイドや 配給の東宝の人が「これは何ですか？」とツッコんであげなかったのか？ それだけ橋本氏が偉い方、という事だったのでしょうかねえ。 制作費を出した側は多少なりとも発言権があるでしょうに・・・。 いやはや、ソ連のＳＦ「ストーカー」や「地獄の黙示録」以来の疲労感ダスよ。 かたやですね、観比べると「コマンドー」は盛り上がるシーンをコンパクトなサイズに詰め込んだ メリハリのあるいい娯楽映画でしたよ。 例えば登場人物が歩くシーンでは、「コマンドー」ですと<どこから来た><どこへ歩く>という点を はっきりさせたらすぐ次のシーンですよ。 「幻の湖」では主人公がただダラダラ歩き、延々と走るんですね。 このシーンは何を見せたいのか、がわからないまま時間が流れていく感じです。 ＴＶより画面の情報量が多い映画において、「観客の集中力をどう使うか」ということを ちゃんと考えている作品と、そうでない作品の差がハッキリわかりました。 私が日曜洋画劇場で「コマンドー」のファンになったのは、非現実の世界を表現できそうな ガタイのシュワちゃんの使い方が抜群だったからなんですね。 デカい丸太を肩に軽々担いだり人が入っている電話ボックスを床からちぎって 持ち上げてみせたり、あの見た目から想像できる能力をさらに拡張した演出が漫画のようでねえ。 そして英語がギコチないシュワちゃんを欧州出身の元特殊部隊精鋭という役柄にして よく喋る相棒役のスッチーと、一言ふた言しか言わないシュワちゃんという掛け合いの妙。 「ターミネーター」とも共通するキャラクターですが、あまたのＳＦ作品で時空パラドックスに 触れた私は「コマンドー」に軍配を上げたんですよ。 いやあ、「コマンドー」だけなら書いてて楽しくなりますね私(笑)。 今回のメイン、「幻の湖」はシベ超と違って酋長個人のオススメではございません。 でも『あのコンビニの○○弁当ってマズいよなあ・・・どれ、腹も減ったし近いから 久々に買ってみるかね・・・ああ、やっぱりマズいなあ。うん、これこれこのマズさ』 という確認をしたいタイプの方(笑)は是非！ 味はともかく、コストや盛り付けでは国産最大クラスって点は保障しますよ。(０６・９・６) 「黒い十人の女」 私がこの映画を知ったのは、ピチカートファイヴのマキシシングルにカップリングとして 入っていた小西メイドのリバイバル予告編でした。 一時期そのリバイバル上映が話題になってましたので、あえてその空気が終るのを 待ってレンタルしてきました。 想像以上の変化球でした。凄い話ですねコレｗ 正妻がいて、なおかつ(少なくとも)９人の愛人と関係しているＴＶ局の多忙な プロデューサーの男。 そして妻・愛人の総勢１０人は互いにそれを知る事となり、ある時は仲良く(とはいえ緊張感大) ある時はいがみあうという不思議な縁で結ばれているんですね。 男は１０人の女それぞれに、まんべんなく薄い愛情を気まぐれに注いでおり 自分に深い愛情が返ってくることもなく(あるいはそれを面倒がっているかも)実生活は いたって空虚です。 １９６１年という高度経済成長へ突っ走る時代ならではに彼もまたやたらと忙しいのですが どの仕事も「こなす」けれど思い入れのかけらも感じない仕事ぶり。 忙しいから空虚さと向き合う時間もないけれど、彼の人生の中で大きな位置を占める仕事に おいて深く心に届くような手応えを求めずに動き続けているから空虚さが埋まることは無い。 男が忙しい仕事の合間に、月夜の屋上で若い女優をハントする場面。 帰宅して家族とＴＶを見る時間を確保することで「人間に戻る」という男の上司：局長の人生観。 この男にとっては仕事においても恋愛においても、常に忙しくあることのみが大事であって 人生においてこだわるモノも大事にしていることもまるで伝わってきません。 目の前の、こなすべき物事を流すようにこなす行為のみが男にとっての時間であるわけです。 こんな男を、でもどうしてもほっとけないし気になる１０人の女達は「いっそ死ねばいい」 あるいは「自分一人だけに全愛情を注いでくれればいいのに」との想いを膨らませていきます。 その想いと、冗談混じりの殺害計画を知った男の軽い好奇心が大きく彼ら全員を 動かしていく・・・ 甘い二枚目の男を演じる船越英二の色気に驚きました。 私が知っている船越英二は再放送で観た「時間ですよ」の亭主とか オンタイムでは「熱中時代」での校長先生でしたから。 女優陣の美しさ、カッコ良さは言うに及ばず。 その中でも出色な中村玉緒と、彼女が気に入るウブで熱意ある若者役の 伊丹十三は印象が強かったですねえ。 伊丹十三演じる誠実な若手俳優、古い男社会的信条で家庭を持つ局長、そして 船越演じる男・プロデューサーの風以外にキャラの立っている男性は出てきません。 あ、例外としてクレージーキャッツの面々(笑)！ そして男が劇中で最後にいる空間で見つけるアリ・・・ 男を軸に観ていくと、バイタリティに満ちた時代とその時代ゆえのニヒリズムが いやというほど伝わってきます。 がむしゃらに頑張る目標を失った２１世紀の現代、この男の虚しい表情や ラスト近くのあの感情はおとぎ話の域であります。 だが、別な意味で日常に手応えを得難くなった今の時代に この男の心情の空虚な部分はしっかりと響いているのが興味深いですね。 ラストの事故現場と、それを一瞥して通り過ぎる岸恵子のクールな横顔が 最後まで洗練された作風を綺麗にまとめておりました。 なるほどオシャレを映画に求める方々にはウケたでしょうね！ でも、そうじゃない方々にもお勧めでございますよ。(０６・６・１１) 「PROPAGANDA」 私が小学生の頃、初めてキャラクターに関係なく自分から求めた音楽がＹＭＯでした。 自分にとっての音楽の標準がＹＭＯであったと言ってもいいんです。 Ｒ＆Ｂやハリウッドの映画音楽を聴いても身体が馴染むのは、ＹＭＯの細野さんという フィルターをくぐって私の脳に音が入ってくるからです。 私はまだちゃんとビートルズを聴いた事がないのですが、おそらく違和感無く 受け入れられるであろう予感があります。 それは幸宏氏がＹＭＯあるいはその期間中のソロでやっていた音楽が私の身体に 染み付いているからです。 そして世界のサカモトとなった教授の仕事は、ＹＭＯのほとんどの作品の中に 巨匠以前の鬼才として封入されています。 彼らは当初ゴダールの世界やクラブミュージックのいんちき東洋メロディをテクノで くるんだポップスを発信しました。 当時のジャズ誌の批評で「彼らは何かと闘っているのだろうけれど」などと書かれていました。 要は【何を言っていいのかわからない】ってことですよね(笑)。 圧倒的な演奏、政治色を感じさせるスタイル、そしてその音楽そのものがあまりにも当時は 強烈でした。個性という域を超えた文化だったんですね。 わからないからこそ世間はイメージ化を急ぎました。 「赤い人民服を着てる人達」「タンスのようなコンピューターと階段のようなキーボードと それらを繋ぐシールドの渦で埋め尽くされたステージにいる連中」などなど。 そんな大衆の誤解を面白がり、裏切りながらＹＭＯはワールドツアーの成功や 個々のソロ活動、スネークマンショーとのコラボやベストテン狙いのカワイイ路線(笑)に アイドルや他ミュージシャンへの曲提供という活動が続きます。 皮肉なことに、その活動が続けば続くほど「ＹＭＯという４人目のメンバー」が３人を 圧迫していったんですね。 そして８３年にＹＭＯを散開(パーティの終焉)するに至るわけです。 ９３年の一時復活や最近の３人揃い踏みは彼ら流のサービスの一環なのでしょう。 私のようなＹＭＯにどっぷり浸かってビックリハウスを読んじゃったり、林家三平の 高座に興味がいったり(笑)していた世代は今でも３人が集まるって情報にピクっと 反応しがちなんですよねｗ 大変長〜〜〜い前フリを経て今回紹介いたしますは、ＹＭＯ８３年の散開ライヴを 下敷きにした佐藤信(劇団黒テント)脚本・監督の「PROPAGANDA」でございます。 ゴダールなど一本も観たことなかった学生時分の私が何度も何度も何度も何度も 観ては感傷と興奮に浸かった、いわば個人的ドラッグフィルムなんです。 メインキャストはＹＭＯの３人と、女と少年の計５人。 散開ツアーでのＹＭＯはナチスドイツの親衛隊のような衣装でした。 もちろん思想的な意味は皆無なのですが(笑)、それを逆手にとったのでしょうか 本編での３人はＹＭＯという結社の構成員であり、女は３人と浅からず関わって いるフシがあります。 映画の狂言回しである少年はＹＭＯユーゲントでありテロリストです。 本編で(３人の意思を汲み取ったかのようでもありますが)少年によりＹＭＯという ４人目のメンバー封印の儀式は行われます。 今また観るとですね、どうしても女が４人目のメンバーに見えるんですよ。 クライマックスでの消え方を考えると、もしかしたら彼女の役柄は ＹＭＯの存在そのものであったのかもしれません。 テクノポリス→ライディーン＋少年の涙とあっかんべー、そしてＭ１６という流れは 何度観てもオンタイムでＹＭＯを追い求めた私の胸に迫るものがあります。 逆に言えば、ＹＭＯが単に昔のあるユニットでしかない方々にとって本作品は わけのわからないライヴ映像でしかない、という可能性があります。 私がゴダールやアントニオーニやブニュエルの映画を観てもどっか心地良い 静けさを感じるのは、多感な時期に本作品をインプットしたからなのでしょう。 酋長個人にとっては「七人の侍」での志村喬や「用心棒」での三船と同じように ＹＭＯの３人を偶像として保存してある貴重な８３分なんです。 アングラ映画や廃墟、８０年代メイクやファッションの断片が記録されてもいる本作に 興味のある方は是非。(０６・７・３０)
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